福岡高等裁判所宮崎支部 昭和31年(う)250号 判決
職権をもつて調査するに、本件記録には、原判決を宣告した公判期日の調書が編綴されていない。尤も昭和三一年三月一二日原審第二回公判調書中「指定告知した次回期日(判決宣告)、昭和三一年三月一七日午前一〇時」なる旨の記載、原判決書右肩欄外に「昭和三一年三月一七日宣告」なる旨の附記があつてこれに裁判所書記官補川内渉の記名押印の存すること、被告人の控訴申立書中「私儀窃盗、賍物運搬、賍物牙保被告事件に付き昭和三一年三月一七日鹿児島簡易裁判所に於て言渡された刑は全部不服」なる旨の記載等に徴すれば原判決が、その宣告期日として定められた期日に被告人に対して宣告された事実は、これを認めえられないことはない。
しかし、同公判に列席した裁判官及び裁判所書記官の官氏名、同公判に出席した検察官の官氏名、同公判に出頭した弁護人の氏名等については、これを確知すべき資料が記録に全く存しない。
およそ、公判期日における訴訟手続については一定の方式にしたがい公判調書を作成し、これに公判期日における右の諸事項その他所定の重要事項を記載するを要することは刑訴第四八条第一、二項、刑訴規則第四四条第四六条の明定するところであり、これらの規定は公判期日における訴訟手続を公判調書の記載によつて明確ならしめ、いやしくも科刑の手続が法令に基く正当な手続によることなくして行われることのないことを保障し、もつて刑事訴訟における被告人の利益を保持しようとする趣旨をも包含するものと解せられる。
原審における判決宣告の手続が不適法に行われたという事実については当事者の主張もなく、これを認むべき資料も記録上存在しないのではあるが、前述のとおり本件記録には原判決を宣告した公判期日の調書が編綴されていないため、原判決の宣告手続が適法に行われた事実はこれを公判調書の記載によつて知るに由なく他にこれを確知するに足りる資料も記録上全く存しない。このように、判決の宣告手続が適法に行われたか否かを記録上確定することのできない事態が発生するに至つたのはひとえに原審において刑訴第四八条等の規定にしたがい判決宣告期日における公判調書を作成し記録に編綴しなかつた法令違反に基因するものであつて、右の法令違反は判決に影響を及ぼすことの明かである場合にあたるものと解するのが相当であり、原判決は破棄を免れない。
(裁判長裁判官 下川久市 裁判官 柳原幸雄 裁判官 岡林次郎)